ツイッターで素晴らし記事を発見したのでご紹介させて頂きます。戦史の探求さんが書かれたシリア内戦における市街戦に関する文章で、高度に複雑化した現代の市街戦に対応するために工兵部隊の役割が増大しており、ロシア軍が考案した機甲部隊と歩兵部隊をミックスさせた新しい戦術が紹介されています。とにかく中身の濃い記事ですので、ご興味ある方は是非。
【強度市街戦での工兵再拡大及び機甲と歩兵との一体化】 : 戦史の探求 (blog.jp)
この記事内でも度々語られていますが、イラク戦争とシリア内戦における市街戦において特に重要な役割を果たしたのがブルドーザー。瓦礫やバリケードを除去して突破口を開く突入用兵器としても、歩兵部隊の盾としての防御的兵器としてもブルドーザーは非常に重宝されたという指摘があります。
何かと実用性に疑問を持たれがちな歩行ロボット兵器ですが、筆者は局面を選べば意外と活躍の場があるのではと思っていました。その一つがこの市街戦です。瓦礫が多く通常の車輛では通行が困難な道でも脚部歩行によって比較的自由に通行出来る行動範囲の広さ、遮蔽物の多さにより装甲の薄さもカバー出来ると予想されることなどがその理由です。
しかし、この記事を見るとやはり現実は甘くないなと思ってしまいますね。やはり市街地制圧で重要な役割を果たすのは歩兵であり、記事内の動画でも突入した装甲車両が度々建物に潜む歩兵からのRPG攻撃を受けているのを見ると、最後にモノを言うのは装甲だなと痛感します。遮蔽物の多さで装甲の薄さをカバー出来ると書きましたが、遮蔽物が多いことはそのまま死角の増加にも繋がり、命取りにともなり得るわけです。
また、そもそも脚部歩行のメリット自体が現存の装軌式車両に対してどれほど優位なのかも問題です。先にアドバンテージとして挙げた脚部歩行に起因する行動範囲の広さも、瓦礫やバリケードの多い市街地ではそもそも行動出来る範囲自体が限られると予想されるので、現存するブルドーザーや工兵車輛とどれほど差が着くかはかなり疑問も残ります。
装甲の薄さもやはり問題になるでしょう。市街地での運用時には当然歩兵との協同が予想されますが、前記のブルドーザーのように「歩兵の盾」としての役割を考えた時に、車高が高く、装甲も薄く、機構的にも高価になることが予想されるロボットを盾代わりにするのは非効率的と言わざるを得ません。
正直なところ、イラクやシリアで頻発した強度市街戦ではむしろロボットのメリットが打ち消される可能性すらあり、求められる役割の多くは現存の車輛で代行可能なものばかりではないかと考えてしまいます。
ではロボット兵器には本当に実用性はないのか?
実際のところ、「歩行」というワードに限らなければ現代の戦場ではロボット兵器はかなり普及しています。アメリカやイスラエルがリードしているドローンなどはその筆頭であり、先頃のナゴルノ・カラバフ戦争でもアゼルバイジャン軍が特攻型ドローンを有効活用して戦いを優位に進めたのは記憶に新しいところです。また、無人タイプの小型装軌式車輛なども各国で開発されており、将来的には市街戦の様相を大きく変える存在となるかも知れません。
これらの特徴を合わせた兵器がガングリフォンのAWGSにも一つだけあります。それがイスラエルが開発したビットヴァイパーです。2mという超小型サイズのAWGSで、対人用の機銃を装備し、自機が破壊されると自爆装置を発動させて周囲に被害を与えるという実にいやらしい性質の兵器ですが、これが市街地に大量投入されたらそれなりに厄介かも知れません。
しかし、ロボット兵器にはもっと違った可能性もあるかも知れません。
歩行型のロボットでもボストン・ダイナミクス製の四足歩行ロボットや本田技研の二足歩行ロボットが大きな進化を遂げており、動画などでこれらの非常にスムーズでなめらかな動きを見ると、歩行型ロボットというのは考えられているよりもずっと複雑な用途や任務に耐え得る存在なのではないかと思わされます。米軍でも歩兵装備の運搬用として四足歩行型のロボットが開発されていますが、通常の車輛では進入困難な山岳地帯などでの運搬任務には威力を発揮するでしょう。
こうした事例を見ると、ロボット兵器の時代は既に来ていると考えた方が良いのかも知れません。そして近い将来、ロボット兵器は現在考えられているのとは全く違う、もっと洗練された兵器として戦場の様相を一変させることもあり得るでしょう。それはもしかしたら、AWGSのような大型サイズのロボットではないかも知れませんが。