ガングリフォン・ムック(仮)

名作ゲーム、ガングリフォンシリーズについて考察するブログです。他のゲームも時々語ります。更新不定期。

グアムの飛ばない亡霊

f:id:sitri:20200630231436j:plain


先日、N氏とツイッター上でブレイズの話題になったのだが、その時の発言が面白かったので勝手ながらちょっと引用させて頂く(毎度ながらすいません・・・・・・orz)。

 

記憶の限りでは、GGBを遊んでいて最も当てが外れたと感じたのは実はギリシャステージのラストで、「C-17が来てくれるまで持ちこたえろ」って言うから頑張ったのに、まさかフライパスだけとは想像していなかった。VW-1の1個小隊でも降下して一緒にパンターどもを押し返してくれるとばかり……

 

かくのごとき4年間の経験から、ギリシャで暴れてくれる米軍を望んだのは決して間違った期待ではなかったはずだ。「A-ha, sorry I'm late!」じゃあないんだよ(ピースメイカー到着時に通信でそう言ってる)。そうして眩しい夕日に向かって消える輸送機を僕たちは見送るしかなかったのである

 

ここでN氏が言っているC‐17とは、ギリシャ終盤、作戦終了間際に登場するアメリカ軍の輸送機C‐17グローブマスターⅢの編隊、通称「ピースメーカー」のことを指している。この部隊の来援まで持ちこたえ、味方部隊を残存させるのがこのステージの任務だったわけだが、陽気な無線と共にやってくるC‐17の姿は多くのプレイヤーの記憶に残っていると思う。

 

N氏はこのC‐17からVW‐1が降下して来てプレイヤーと共に戦う場面を期待していたが、予想が外れてがっくりきたらしい。筆者などはそこまで考えずに毎度C‐17の編隊を見送っていたクチだが、言われてみると「なるほどな」と思ってしまう。ここでC‐17からVW‐1が降りて来て敵を押し返してくれたら、確かに燃える展開ではある。

 

f:id:sitri:20200630230957j:plain

アメリカ軍の運用する大型輸送機C‐17グローブマスターⅢ。大きなペイロードと比較的短い滑走路でも離陸可能なSTOL性能が売りの高性能機だ。ガングリフォンの世界では日本も採用しており、機動対戦車中隊とHIGH‐MACSを戦地へと運ぶ役目を果たす重要な存在である。

 

実を言うと、ギリシャの演出に似たような思いを持っていた方は他にもいて、ここでは仮にR氏としておくが、この方もN氏同様、ギリシャのC‐17に対して次のようなツイートを残している。面白い内容だったので筆者はすぐにリツイートしてしまったのだが、ここでまた勝手に引用させて頂くことをお許し願いたい。

 

ガングリフォンが個人的にダメになった理由の一つとして作り込みが甘くなったって言う点があると思う。初代5面タートンはわざわざそこにしか出てこないムリヤを使ってヤークトパンターを降下させてるんだよ。あれ過半数のプレイヤーは見てないと思う。


ブレイズで好きな面はギリシアなんです(あそこは味方の和製ティーガーがクソ強い)が、アレだって初代クォリティならラストにAFTA軍が来る時グローブマスターからVW-1を(無意味に)降下させるはずなんだよ、それをするだけでぐっと引き締まると思うんだな(力説)

 

このR氏の言葉通り、初代のタートン最終盤には全部で三機のAn‐225ムリヤが雨の中を来援し、三機のヤークトパンターを投下していく。多くのプレイヤーは大抵の場合、万里の長城手前などで待機するため、速攻撃破を狙ってムリヤの進路上にでも立ちはだからない限りその姿を見ることはほとんどない。開発側としても作戦エリア外からの増援として登場させる方が作業としては何倍も楽なのに、わざわざムリヤを登場させて降下シーンをしっかり作っているところに初代の凄さがあったわけだ。

 

その上でR氏はギリシャのC‐17からVW‐1が降りて来たら作品が「グッと引き締まる」と指摘しているわけで、これも「なるほどな」と思わず膝を打ってしまう意見である。そしてこのN氏とR氏という二人の古参ファンが、ブレイズのゲームとしての面白さは認めつつも、その演出に物足りないものを感じており、その代表例としてギリシャのC-17を挙げたというのは非常に面白い事実だと思う。 

 

そしてこの点に関して言えば、筆者は二人の意見に大賛成である。可能ならば是非やって欲しかった演出だと思うし、見てみたいという気持ちも強い。N氏も指摘する通り、旧作では倒すべき最強の敵であったアメリカ軍との共闘なんてそれだけで胸が湧くし、兄弟機のVW‐1との共同戦線なんてPKOを舞台にしたいブレイズならではのミッションになり得るわけである。

 

このギリシャの指摘と共に、N氏はブレイズにおいてC‐17を始めとする輸送機の存在感が薄れたことも指摘されていた。

 

実際、初代やⅡでは護衛目標や破壊目標として登場しただけでなく、プレイヤーを作戦地域に空輸し、ゲームスタート時にはC‐17からの空挺降下シーンで始まるステージも少なくなかった。ざっと数えただけでもハリコフ、東ウラル、アウジラ、タンチェン、ケープカナベラルと、5つのステージで降下シーンから始まる上に、アウジラではスタート直後に乗ってきたC‐17が撃墜されるという演出まであった。

 

また、前述のタートンに登場したムリヤも割合出番が多く、タートン以外にもヴォストーチナヤ・リツァで複数のパンターやBMXを空から投下する役目を果たしていた。或いは同ステージの氷壁の陰に墜落していた機種不明の輸送機の姿もそこに含めて良いのかも知れない。N氏の指摘する通り、初代やⅡにおいて輸送機の出番ないし登場シーンはかなり多かったわけである。

 

もっとも、ブレイズにも輸送機の登場シーンがないわけではない。それは前述のギリシャのピースメーカーがそうだし、或いはケープカナベラルなどは正に旧作同様、C-17からの降下シーンから始まる伝統的ステージだ。しかし、逆に言うとそれ以外に輸送機の登場シーンはない。護衛対象としても、破壊対象としても登場することはないし、墜落した機体として登場することもない。

 

敵の空挺部隊のキャリアーとしても登場することはないし、そもそも敵に空挺部隊が存在しない。旧作に比べてステージ数が減ったことを勘案しても、確かに輸送機の登場シーンはかなり減っているわけだ。

 

それは登場シーンの数に止まらず、その存在感の点でもそうだ。取り分けて連雲港で護衛対象として登場する味方のC-17や、或いはタンチェンの破壊目標として登場するC-17三機を覚えている古参ファンほど、そこに何か物足りないものを感じてしまうのは確かだ。登場回数という以上に、輸送機との関わり合いそのものが遠くなってしまったように感じられるわけである。

 

f:id:sitri:20200630230908j:plain

物資を投下するC‐17。このような感じでVW-1が降下してくる姿を想像した人は意外といたらしい(筆者を除く)。

 

「戦闘機」というジャンルが消滅したこともこの印象に拍車を掛ける要因ではないかと思う。前回の記事でも少し触れたが、初代やⅡではユーロファイター2000やFA-117ブラックジェットといった戦闘機が登場し、それこそ初代のハリコフからⅡのチーナンに至るまで戦場の上空を飛び回ってプレイヤーを手こずらせた。取り分けてⅡのシジ・バラーニやチーナンの超低空で戦場に侵入してくるユーロファイターとFA-117Aの姿は忘れられない印象を残す。

 

ブレイズではこれらの戦闘機がジャンルごと消滅し、航空機は戦闘ヘリのAH-64Dロングボウ・アパッチとKa-50ホーカムの二種のみになってしまった(アパッチはグアムに2機登場するだけなので、実質的にはほぼホーカムのみ)。このようにブレイズの戦場から航空機が削られていった理由は定かではないが、とにかくN氏の指摘するような「空を飛ぶものの」の存在感が薄れているのは確かだ。

 

その中で唯一の例外と言えるのはグアムに登場するAC-130スペクターだろうか。これも前回の記事で紹介したBv206同様、ほとんどのガングリファンは覚えていないと思うが、グアムの格納庫内に駐機している姿が確認出来る。

 

このAC-130は簡単に言えば輸送機のC-130ハーキュリーズに40㎜機関砲や105㎜滑腔砲(!)を搭載した改造機で、いわゆるガンシップと呼ばれる輸送機ベースの珍しい地上攻撃機である。その圧倒的な火力と豊富なペイロードを武器に空中から地上部隊を支援するのが主な任務で、常に自軍の航空優勢下で戦うことを基本とするアメリカ軍でしか運用出来ない贅沢な兵器だ。このAC-130は正確には攻撃機ではあるものの、ブレイズに登場する唯一の破壊可能な航空機であると思う(当然、ヘリを除く)。

 

f:id:sitri:20200630230936j:plain

海岸線を飛んでいくAC‐130Hスペクター。向かって右の胴体から105㎜滑腔砲と40㎜機関砲らしき武装が飛び出しているのが見える。母体となったC‐130は元々は輸送機であり、HIGH‐MACS1機を搭載・空輸する能力がある。

 

ところがこのAC-130、登場するのは良いのだが、グアムの格納庫内で駐機する破壊目標として登場するだけで、一向に飛ぶ気配がない。というか、飛ばない。演習の破壊目標として登場する固定配置の六輪トラック同様、単なる置物と化しているのである。

 

同じく演習に登場するAH-64Dにしてもそうだが(こちらは飛んでいるが)、この演習の目的は不要兵器の在庫処理なのだろうか?にしては勿体なさ過ぎやしませんかね?とツッコミを入れたくなるのだが、とにかくグアムのAC-130は飛ばないのだ。「飛ばねえ豚はただの豚だ」とはさる某アニメの主豚公の名台詞であるが、「飛ばねえスペクター(亡霊)はただのスペクター」なのだ。

 

勿論、順当に考えればAC-130とHIGH-MACSが直接対決するようなシチュエーションというのは想像し辛い面があるのも確かだ。はっきり言って、こいつに空に舞い上がられたら恐らくHIGH-MACSに勝ち目はないだろう。遮蔽物の陰に隠れてやり過ごすことくらいは出来るだろうし、戦車よりは善戦出来そうだが、そもそもAC-130が運用されるような環境下でHIGH-MACSを運用すること自体に相当な無理がある。

 

とは言え、ブレイズのノリだったらいっそ振り切って空に舞い上がったAC-130と戦うという、ケレン味溢れるシチュエーションがあっても良かったのではないかとか筆者は思ってしまうのだが、どうだろう?空中から猛射を浴びせるAC-130の弾幕をかわしつつ接近し、高所からジャンプしてその胴体に105㎜砲を叩きこむ16式なんてとっても絵にならないだろうか?

 

ブレイズという作品の方向性から考えたら、むしろそれくらい派手なことをやってくれた方がいっそ良かったと思う。「ゲームだからこれくらいいいだろう」ではなくて、「ゲームなんだからそこまでやろうよ!」と、いっそ振り切って思い切ったことをやってみましょうよと筆者は思ってしまう。

 

もっとも、「そもそも16式のジャンプが届くような範囲にAC-130が降りて来てくれるのか?」という問題はあるが、その場合でも「空中にAC-130がいる状況下での戦い」自体はコンセプトとして成立すると思う。これは例えば、以前の記事でも少し触れた『Demons` Souls』の嵐の祭祀場などを思い起こして頂ければ分かりやすいと思う。

 

嵐の祭祀場はステージ上空にエイ型の敵MOBが多数浮遊しており、一定の間隔で空中から強烈な攻撃を仕掛けてくる。悪いことに嵐の祭祀場は足場の狭い箇所も多く、プレイヤーはこの攻撃を警戒しながら攻略を進めていくことになり、難易度が高くなっている。その最終エリアにはそれこそ空中要塞とでも形容できそうな巨大なエイがやって来て、遥か上空から吹き飛ばし属性のある槍のようなものをこれでもかと撃ってくる。

 

或いは、同じフロム・ソフトウェア社製の『アーマードコア』シリーズなどにも似たようなシチュエーションのステージは多数出てくる。地上ないし空中に存在する大型の敵機、或いは空から降り注ぐミサイルや大地を焼き尽くすレーザー攻撃を掻い潜りつつ、敵のACとの戦闘を行うという場面は意外と多い。

 

古くは『ドンキーコング』の落ちてくる樽や『スーパーマリオ』のクッパが飛ばしてくる炎に先例を求められそうなこうしたシチュエーションは、むしろゲームとしては伝統的な手法であって、ブレイズで採用しても良かったのではないかと筆者などは思ってしまう(勿論、やり方次第では開発側がファン達からの絨毯爆撃に晒されることになるのだが)。

 

f:id:sitri:20200630231436j:plain

フレアらしきものを放ちながら飛行するAC‐130H。ボスの風格たっぷりで、HIGH‐MACSの敵としては申分なし?

 

とまぁ、勝手気ままに書いてしまったが、ブレイズという作品は「ここをもうちょっとこうしたら」みたいな部分が沢山あるわけで、それ自体が実は「案外悪くない作品だった」ことの証明みたいなものになっていたりする。本当に駄目なものは誰も語らないからね(ASの悪口じゃないよ?)。

 

それはN氏やR氏もそうだし、筆者もそうだ。特に筆者などはもうブレイズのそこいら中に「ここをもっとこうしたら!」と思っていて、その中には真面目なものからお馬鹿なもの、開発スタッフやファンが聞いたら目の玉ひん剥いて怒られそうなものまで多数ある。

 

例えばギリシャの鉄橋だ。ギリシャにはステージを南北に貫く鉄道が走っており、丁度マップ中央部付近の渓谷になっている辺りが破壊可能な鉄橋になっている。この鉄橋の上から敵を狙撃することも可能で、機体によっては有効な狙撃ポイントとなり得るストラクチャーの一つであった。

筆者はこの鉄橋が好きで、ギリシャをプレイする度にこの鉄橋の上から敵を狙撃したり、或いはその橋脚を遮蔽物代わりに敵の戦車と戯れることが多かった。というのもこの鉄橋、とても「絵」になるのである。

 

戦史ファンには今更説明するまでもないだろうが、「橋」と言えば過去の大戦などでも度々その攻防の舞台となってきた戦略的要所である。取り分けて多数の戦車や車両の通行を可能とする橋を保持しているか、いないかは作戦の成否に大きく関わり、正に橋を巡って激闘が繰り返されてきた。古くはドイツ少年兵の悲劇を描いた『橋』から『レマゲン鉄橋』、『戦場にかける橋』、『遠すぎた橋』など、「橋」を舞台にした戦争映画は枚挙に暇がない。

 

ギリシャに登場するのは鉄道用の「鉄橋」ではあるものの、その上に陣取って眼下を行く敵戦車の上面装甲を撃ち抜くHIGH‐MACSの姿は想像しただけで絵になるわけだ。その上で、筆者としてはこの鉄道に列車を走らせたらどうかと思ったりする。初代のノボシビルスクのように破壊目標ではんく、ただの情景でも良いから列車などが走っていたりするとより一層絵になるかなとか思ってしまうのだ。

 

実際、N氏によればブレイズ発売前のデモ映像には鉄道の存在が示唆されていたらしい。

 

これより後に発表されたものだったか、ギリシャステージのデモ映像で、線路を車両が走るかのように見せる映像もあった(鉄道車両の主観視点的カットが2~3秒だけ入っていた)。製品版では線路と橋がただの飾りだったから、オヤと思いました

 

残念ながら筆者はこのデモ映像を見たことがないが、あの何も走っていない鉄道に覚えた違和感はそれほど間違ったものでもなかったらしい。恐らく、開発段階では列車を走らせる構想もあったのかも知れない。

 

製品版に実装されなかった理由は推測するしかないが、一つは列車を走らせると鉄橋上を狙撃ポイントとして利用できない可能性(プレイヤー機が列車に撥ねられる、押し出される可能性がある)、或いはギリシャはただでさえ多数の敵が登場し、特に狙撃モードで狙った時などには珍しく処理落ちが起こるため、FPSの関係で何かしらの問題が起こった可能性などがあったのかも知れない。

 

f:id:sitri:20200619092503j:plain

映画『レマゲン鉄橋』の冒頭場面。橋を巡る戦いは第二次大戦の、特に交通網の発達したヨーロッパ戦線において激烈を極めた。

 

或いは、ケープカナベラルのダックにも筆者は思うところがある。あのスペースシャトル・ダックは破壊目標としてはただの置物でつまらないので、タイムリミット間際になったらカウントダウンが始まって、もうもうと煙を立てながら上空に飛んで行くというのはどうだろう?

 

それこそ『ポケットの中の戦争』の冒頭みたいに奇襲作戦としてはかなり盛り上がる演出で、初代・東ウラルのICBMの先例もあることだし、年表通りの最終面にしてもおかしくないような雰囲気になるのではないか。

 

もっとも、素人考えなのでこれらを本当に実装したら演出過剰のうるさいものになっちゃう危険性も十分あるのだが、それでもブレイズのノリだったらむしろ過剰なくらいの方が良いのかなとか思ったりもする。

 

絵画に例えるなら、初代やⅡというのは正統的な古典絵画であり、その根底にあるのはある種のリアリズム絵画のそれだと思う。対してブレイズはむしろ過剰と誇張に満ちたバロックのそれであって、それはイフェクトグッズを始めとするゲームシステムやAWGSの多少歪なモデリングカンフー映画のように吹き飛ぶBMXやエレファントのパオーン、HIGH‐MACSの立膝ポーズなど、あらゆるところに出ているように感じられる。

 

ならば、いっそその方向性をもっと強めて演技過剰に演出過剰、誇張表現とケレン味のオンパレードにしてしまうのも一つの手だったのではないかなどと筆者は思ってしてしまうのだが、勿論、そんなことを言ったら怒られるので言わない。