前回に引き続きジオラマ撮影です。今回も架空戦記をモチーフにしたジオラマです。
2021年2月、モンゴルにおける中露の軍事衝突から間を置かずに、ロシアはウクライナ西部への侵攻を開始した。この矢継ぎ早の軍事行動の背景には、先の大戦で敗戦国となったロシアの絶望的な窮状があった。十年連続の凶作によって大量の餓死者が発生する一方、寒冷化によって作付けを諦めた農民達は南に流出。そこに起こったカムチャツカ半島の火山群の一斉噴火はロシアへの最後の一撃となった。舞い上がった火山灰は寒冷化をいよいよ加速させ、記録的な寒波によってシベリアの交通は寸断され、経済活動は停滞した。ロシアはもう、後戻り出来ない状況に陥っていたのである。
モンゴルにおける戦いはひとまずの終結を見た。が、それは新たな戦いの幕開けでもあった。モンゴルにおける戦いが終結して間もない2020年2月、カムチャツカ半島の火山群が一斉に噴火したのを号砲とするかのように、ロシアが前年に併合したウクライナ東部からドニエプル川を越えてウクライナ西部に侵攻したのである。
ウクライナは先の大戦中から再三に渡ってロシアによる侵攻を受けていた。これまではAPCや国連の介入もあって何とか侵攻を退けていたものの、アメリカ内戦の隙を突いた昨年5月の侵攻では国連の支援を得られずロシア軍に押し込まれ、国家存亡の危機に立たされた経緯があった。
この時にはロシアの勢力拡大を嫌ったトルコやグルジア、東欧諸国がウクライナに緊急展開部隊を送って支援した為、ロシア軍は進撃をストップした。しかし、国内からロシア軍を撃退するには至らず、ウクライナはドニエプル川以東の東部地域の大半を事実上併合されてしまう事態となっていたのである。
こうしたロシア政府の強圧的な行動の背景には、先の大戦において敗戦国となったロシア国内の凄まじい混乱ぶりがあった。
ロシアは先の大戦末期に首都モスクワが旧PEU軍過激派の核攻撃を受けて壊滅し、サンクトペテルブルグに遷都。ロシア共和国として新たなスタートを切ったが、終戦から間もなく軍のバックアップを受けた旧共産党派がモスクワを首都とするロシア連邦を成立させた為、国内を二分する内戦状態に陥った。
内戦終結後も状況は改善するどころか、日に日に厳しさを増していた。10年に渡る記録的な凶作は各地に深刻な飢饉を引き起こし、大量の餓死者が発生。近年は寒冷化の影響で春になっても寒さが引かなくなり、作付けを諦めた農民達が土地を捨てて南のウクライナや中央アジアに流出する事態となり、国家そのものが破綻寸前に追い込まれつつあった。こうしたことから近年はロシアと近隣諸国との紛争が絶えず、2017年のウクライナ侵攻や19年の日本の北方領土への侵攻など、軍事行動を繰り返していたのである。
そこに来た今回の異常寒波とカムチャツカ半島の火山の噴火はロシア経済への最後の一撃となった。寒波の影響はシベリアのみならずウラル以西のヨーロッパ側の地域でも広く猛威を振るい、交通がストップしたことで経済活動も停滞。火山の噴火で舞い上がった粉塵はシベリアの空を覆い、日照不足から農民の流出も更に加速していた。ロシアはもう、後戻り出来ない状況に陥っていた。
ここでもGEUは事態解決の有効な手段を持たなかった。ヨーロッパ各国は表向きにはロシア政府の行動を非難する声明を出したものの、エネルギー供給を一手に握られている現状ではロシア政府の行動を追認するしかなかったのである。
そんな中で真っ向からロシアに対決姿勢を示したのがトルコであった。トルコは先の大戦に参戦しなかった為に戦力を温存しており、戦後は地中海と黒海を睨む地域大国としてその存在感を増していた。
軍も良く近代化されており、士気も旺盛だった。その装備も強力で、レオパルドⅢ戦車を始めとしてパンター歩行戦闘車やヤークトパンターなど、ドイツ製の高性能な兵器を多数保有していた。2017年にはバルカン半島の紛争に介入し、日米主体の国連軍の介入で食い止められたとは言え、ギリシャの首都アテネ近郊まで迫る快進撃を見せており、その精強さは衆目の一致するところであった。
また、トルコは産油地域である中東とカスピ海に近く、シリアとアゼルバイジャンから国内に伸びる石油パイプラインに加えてキプロス沖の天然ガス田を抑えていることもあり、エネルギー供給の点でロシアからの干渉を受けにくいことも強硬姿勢の背景にあった。
トルコ政府にとって黒海を挟んで領海を接するウクライナの危機は決して対岸の火事ではなかった。もしウクライナ全土がロシアに併合されれば黒海沿岸地域の大半がロシア領になってしまう上に、トルコが影響力を保つバルカン半島へのロシアの進出を許しかねない危険があり、それは自国の安全保障上の観点からも許されないことであった。