ガングリフォン・ムック(仮)

名作ゲーム、ガングリフォンシリーズについて考察するブログです。他のゲームも時々語ります。更新不定期。

コラートよ、永遠なれ

先日ツイッターでフォロワーさん達とコラートの話をしてて面白かったので久しぶりに記事を投稿します。

 

コラートと言えばタイが開発した二脚型AWGSで、国境地帯に広がるジャングルでの活動を想定して駆動系を油圧系とし、パワーのある大型の腕で木々を薙ぎ倒しながら進むという、一風変わった機能を持つ機体です。APC軍の中では日中以外で開発された唯一の貴重なAWGSであると同時に、AWGS全体でも後発の部類に属する最新鋭機という位置づけの機体でもあります。

 

しかしこのコラート、戦争中期に初めて実戦配備されたという設定のためか、初代では5面のタートンくらいしか出番がなく、Ⅱに至ってはなぜかサバイバルモードのバレンツにのみ登場するというかなりレアな存在になっており、その変わった特徴の割にゲーム中での活躍は記憶に残りにくいという、最も地味なAWGSの一つではないかと思われます。

 

かくいう筆者も数年前までⅡには登場しないと思っていたクチで、登場していたことを知った時は確認のための記事までぶち上げ、「何で熱帯雨林での活動を前提にした機体が極北のバレンツに出て来るんだ?」と衝撃を受けたものです。筆者自身、バレンツは何度もプレイしましたし、コラートとも何度も遭遇していたはずなんですが、先のような機体設定からずっとBMXだと思い込んでいたんですね。

 

sitri.hatenablog.com

 

このようにとことん地味で影の薄いコラートですが、コンプリートファイルに掲載されている岡田厚利氏執筆の戦史を読むと、第三次大戦の一幕である意外な役割を果たしていたことが分かります。

 

それは戦争中盤、モンゴル高原での戦いに敗北したAPC軍が劣勢に回り、進撃して来るPEU軍を食い止めるべく万里の長城に最終防衛線を引いた頃のことです。中国政府は北京防衛のために各国に圧力を掛けて兵力を送らせますが、これらの国々では厭戦気分が蔓延し、加盟国間の結束に亀裂が生じ始めます。

 

2015年5月にモンゴルが独立してPEUに加盟したのを皮切りに、6月にはチベットが突如として中国からの独立を宣言。派兵されたPEUドイツ軍降下猟兵の支援も受けて激しい抵抗を見せますが、機動対戦車中隊の活躍により阻止されました。しかし、この隙を突くように今度は長年中国と対立するベトナムが中国領に侵攻し、広東省チワン族自治区省都南寧に迫ったのです。

 

この際、ベトナム軍にはなぜか実戦投入されたばかりのタイ製AWGSであるコラートが配備されていた*1という旨の記述があり、戦争の早期終結を図りたかったであろうタイから密かに供与されたことが示唆されています。*2

 

ベトナム軍の侵攻自体はやはり機動対戦車中隊の活躍によって阻止されたものの、ベトナム軍がタイ製のコラートを装備していた事実はAPC内部の動揺をよく表している一事だと言えます。

 

ガングリフォン・コンプリートファイルによるとタイ陸軍がコラートの実戦配備を開始したのは2015年の4月で、ベトナム軍の中国侵攻が6月28日ですから、開発国のタイですら僅か二か月前に実戦配備した兵器をベトナム保有しているというのはかなり怪しいわけです。

 

この二つの事件の影響は大きく、7月になると中国国内で戦争終結を求める和平派のクーデターが発生。更にオーストラリアがAPCからの離脱を宣言したのを皮切りに東南アジア各国もこれに続き、APCは日中を残して事実上崩壊します。8月にはアメリカが再び「世界の憲兵」を宣言し、これらの国々の自由の擁護と独立支援を口実に参戦。圧倒的な火力によって中国本土の三分の二を占領し、中国は遂に降伏に追い込まれます。

 

しかし、APCの崩壊はコラートを装備したベトナム軍が中国領に侵攻した時に既に始まっていたと見るべきでしょう。ゲーム中では地味なコラートですが、戦史の中では地味に重要な役割を果たしているAWGSなんですね。

 

このようにサターン時代はレアキャラ感が強かったコラートですが、PS2にプラットフォームを移したブレイズのチベットでは大量配備されたコラートの雄姿を拝むことが出来るようになりました。これは戦後になると中国などでも採用が進み、輸出に成功した結果と思われますが、サターン時代に不遇を囲った憂さ晴らしとでも言うようにとにかく大量に出て来ます。

 

しかも、このチベットに出て来るコラートは皆表情豊かで、洞窟に隠れていたり、滝に打たれていたり、大岩の下敷きになったり、三機で仲良く歩いてきたり、ATMを発射してきたり、実に可愛らしい一面を見せてくれます。チベットはコラートの秘境、コラートマニアなら決して避けては通れぬ聖地と言っても過言ではないでしょう(にも関わらず、「ブレイズにコラート出てったけ?」とか言われちゃうのはご愛敬)。

 

sitri.hatenablog.com

 

 

 

というわけでようやく本題に入りますがフォロワーさん達と話してたら「コラートのつま先の突起って結局何なの?」という話になりました。下の画像のつま先から飛び出ている突起がそれですね(実際には足の甲といった方が正確)。

 

タイが開発した二脚型AWGS、コラート。タイの工業力を表わすように、パーツは世界各国から調達されている。

 

筆者自身は漠然とワイヤーカッターかなと思っていました(この名称が正しいのかは分かりませんが)。読者の方はご存知でしょうが、戦場では敵の行動を妨害したり、時にはもっと攻撃的なトラップとしてワイヤーが張り巡らされることがあります。これらのワイヤーを切断するために、車体の前方にワイヤーカッターを装備した装甲車両というのも存在しているようです。

 

また、劇場版パトレイバー一作目の冒頭では風洞実験中に暴走した試作レイバーX‐10を破壊するため、陸自の空挺レイバー部隊が木々の間にワイヤーを張って待伏せしていた描写があります。この作戦は功を奏し、ワイヤーに絡めとられて行動不能に陥ったX‐10は陸自部隊の集中砲火を受けて文字通り蜂の巣にされ、遂に行動を停止します。

 

空挺レイバー部隊の集中砲火を受けるX-10。マズルフラッシュの光で機体に絡まった数本のワイヤーが確認出来る。

 

このワイヤートラップ、実はAWGSにはかなり効き目のある作戦かも知れません。既存の装甲車両に比べて車高が高く脚部も長いAWGSは、ワイヤーが絡まると容易に行動を阻害される可能性が高いからです。AWGS側は足元の視界が極端に悪くなることも予想されるので、場合によってはそれこそ転倒を狙うことも可能となるでしょう。

 

これらのことから、筆者はこのようなトラップ用のワイヤーを切断するためのワイヤーカッターだと思っていたんですね。形状的には刃のようにも見えますし、当たらずとも遠からずではと思っていたわけです。

 

しかし、改めてブレイズの兵器図鑑で確認したところ、意外な事実に気付きました。何とこの突起、歩行に合わせて可動するんですね。筆者がツイッター上に上げた動画がありますので、まずはこれを見てみましょう。

 

 

これを見ると、足の甲から生えた長い突起が歩行に合わせて倒れ、丁度包丁でも振るうかのような動きでつま先のクッション部分に当たっているのが確認出来ます。このような機能は明らかに何らかの目的を持って付与されたものでしょうから、何の意味もない突起とは思えないわけです。

 

フォロワーさんは「マチェットで低木を払うように」と表現されていましたが、的確な表現かも知れません。筆者が想像していたのはあくまでもワイヤカッターでしたが、大型の腕で木々を薙ぎ倒していくコラートの性質を考えると、むしろ足の甲のカッター状の突起とつま先で低木や倒木を挟みこみながら切り倒し、ジャングルの中を啓開していくといったよりワイルドな運用の方がしっくり来る気もします。

 

勿論、この突起が実際にどういった性質のものなのか確証はないわけですが、その動作やコラートの運用思想を考えると、何らかの刃物的性質を持っている可能性は高いと言えるのではないでしょうか。

 

ちなみに、この突起はサターン時代には再現されていなかったようですが、コンプリート・ファイルの設定画を見ると突起の根元に軸受けのようなものが見えるので、ブレイズになって急に追加された設定というわけでもないようです。恐らく、コラートがデザインされた頃から考えられていたギミックだと思われます。

 

こういう部分まで初期の頃から考えられていたのかと思うと、筆者はちょっとした感動すら覚えてしまうんですが、ガングリフォンに登場するAWGSはいずれの機体もデザインが良く練られており、かつ丁寧に扱われていることの証明になると思います。

 

これに限らず、「サターン時代から考えられてはいたがハードの制約で表現出来なかったことをPS2のマシンパワーで表現する」というのはブレイズという作品の大きな特徴です。が、それがコラートの足の甲の突起の可動という、恐らくほとんどのプレイヤーが気付かなかったであろう細部の再現に費やされている辺りに、徹底的にリアリティにこだわり、細部まで作り込んだ初代と同じ手つきの跡を見るのは筆者だけでしょうか?

 

ゲーム本編には何の影響も及ぼさないけれど、その作り込みが圧倒的な世界観を伝えてくれる。こういうマインドはガングリシリーズに共通した良さだということを改めて感じさせてくれる、コラートのお話でした。

 

 

 

 

 

脚注

*1:「しかも、なぜかベトナム軍はAPC加盟国の一国であるタイのAWGS、コラートを装備していた。」ガングリフォン・コンプリートファイル、60p

*2:ガングリフォン世界におけるベトナムは2008年に中国との間で第二次中越紛争を戦っており、紛争勃発後に中国主導でAPC軍が創設され、ベトナムに派兵された。この紛争の詳細は語られていないが、APC軍側の人的犠牲も無視できないレベルであり、憲法を盾に人的貢献をしない日本に批判が集中。結果的に日本外人部隊が創設される直接の契機となった。尚、明言こそされてはいないものの、この紛争といくつかの記述から推測するにベトナムAPCに加盟していない可能性が高い。